(2018-11-4・日・札幌駅前ビジネススペース・会場・16時~17時)
2108年11月4日(日)「第16回 遠友みらい塾」が開催されました。
(寺島塾長の講演要旨を速記録ではなくルポルタージュ風に構成しています。)
【Ⅰ】講演導入部分
「流動性知能」から「結晶性知能」
今年の秋に行った講演で不思議な縁を感じる2人の人物についてのものがありました。共に強く求められて実施したものですが、現代の日本を知る上でも重要なヒントがあります。最初にそこから話を始めます。
一つは京都の立命館大学で行った加藤周一さん(1919~2008、東大卒・医学博士・評論家)についてのものでした。全国から加藤周一さんを研究する方々も多数参加されるものでしたが、個人的には加藤さんと一度だけ、お会いしたことがあります。加藤さんが85才頃に私を訪ねて来られて、軍縮問題について話し合ったことがあります。ちょうど、イラク戦争を巡っての意見交換になったものでした。 私のかねての発言に加藤さんが関心を寄せてくれていた事によります。そして加藤さんが「年齢と共に物事の繋がりが見えて来た」とおっしゃった事が記憶に残っています。その加藤さんの言葉から私は「流動性知能」から「結晶性知能」に着目することになりました。前者の「流動性知能」は、年齢と共に衰えるのに対して、後者の「結晶性知能」は訓練しないと衰えるとはいえ、体験と経験によって知見を深めることが出来るところに特長があります。そして加藤周一さんという存在そのものに「結晶性知能」を見ることが出来ます。先人二人の「わななくような怒り」もう1つの講演は、加藤さんと同世代だった田中角栄さん(1918~1993)に関わるものです。お二人には、共通するものがあります。それは、困った人をどう助けるということへの活動パワーです。その根底には、考える事以上に「体験」と「経験」を通じた、「わななくような怒り」が見えてきます。 今年は田中角栄さんの生誕100年にあたり、娘の真紀子さんから講演を頼まれました。 ①しかし、私よりも角栄さんを良く知っている角栄本を書いたライターさん、記者さん、学者さん、あるいは角栄さんの秘書だった方々、さらには政治家の面々など、適任の方々がいらっしゃるでしょう、と伝えたのですが、結果的に娘の真紀子さんの「イベントの収益は『子ども食堂』に寄付する」の一言で受けることになりました。(笑)
第一次世界大戦の戦後世代二人(加藤周一さん、田中角栄さん)の共通点の一つである同世代という事には、大きな意味があります。第一次世界大戦(1914~1918)の“戦後世代”の体験者なのです。ここで重要なのは、二人にはこの歴史の歩みの中で対中国についての向き合い方への反省があったことです。
医師であった加藤さんは東大病院で敗戦を迎え、原爆投下後の広島に出向く経験者、一方、角栄さんは徴兵体験をもち、一兵卒として軍の残酷さについて身をもって知っていることが、お二人のその後の生き方を決めていったものと思います。そこにあるのは、お二人が共有する「日本が中国を侮り過ぎた!」事への反省があります。
日本という国が中国に対してほとんで意識することなく振る舞う“ノーリスペクト”という態度。これがどれほど両国間に悪影響をもたらしているかをお二人は身体で知っていたと思われます。一般的に戦後の日本人は、心理的に太平洋戦争で米国に敗けたことは認めても、実は米国と中国の連携に敗けたと思いたくなかった背景があります。それは、第一次世界大戦後の日本のとった外交戦略ともつながるものです。ですから、この二人(加藤・田中)の存在を通じて、今日の、そして将来のこの国のあり方を問い直してみることは大事な作業である、と最近の講演体験からも再確認したものです。その事を冒頭にお伝えします。
【Ⅱ】 資料集をベースにした講演部分
年 | 米国 | 中国 |
1990年 | 27.4% | 3.5% |
1995年 | 25.2% | 7.4% |
2000年 | 25.0% | 10.0% |
2005年 | 17.8% | 17.0% |
2010年 | 12.7% | 20.7% |
2015年 | 15.1% | 21.2% |
2018年(6月) | 14.9% | 21.2% |
(2) 「データを征するものが世界を征する」の時代
キーワードとしては、
蛙飛びの経済 ……… これまでのやり方を跳び越える、パラドックスを超える経済
夢に金が付く ……… 夢物語に金(ファンド)が付いていく
上記の「2つ」が、併発、併合して新事態が発生する時代に入っています。
そして、デジタル・エコノミーを象徴するGAFA+M(注・Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft ) の存在を視野に入れると、日本のいろいろな分野の技術が今、凄く劣化しており、経済の話が株価の話に代わってしまい、マネーゲーム国家になってしまっています。
(3) 国道16号線に『ない』ものが重要
資料集:32頁(国道16号線沿いの団地)他
◆高齢化の勢いに囚われてしまったような日本の現在、ここに至る経緯を冷静に見直すことでここからの脱却の道は見えて来るのであって、まずは70才以上の人材、さらに女性の登用で希望の灯を見つけることが可能です。
国道16号線に並ぶ団地が今や、高齢者をコンクリート壁に閉じ込めてしまうような場になってしまい、そういうゾーンからは、クレーマー化した老人たちが生み出されることになってしまっている現実を直視する必要があります。
そのことを別視点から見れば、国道16号線にないものに気づかざるを得ません。
それは、「食」であり、 「農」であり、「信仰」であります。
ここに「戦後の日本をどう乗り越えていくか」のカギがあることに気づきたいところです。それは、今の高齢者群に欠けているのが「死生観」であることが見えて来ます。
【Ⅲ】 講演終了後
と、予定の17時を10分以上過ぎたところで寺島塾長の講演は終了。③寺島さんは次の会場に向かい、会場では参加者からの近況報告が続きました。当塾代表の秋山孝二さんからは、
:札幌遠友夜学校記念館建設支援「連続講座」案内(これからの予定)
11月13日(火) 遠友夜学校と私たちのこれまでの活動
12月11日(火) DVD:創設100周年記念放送『魂の灯台・遠友夜学校』・海外取材放 送『フィンランドで見つけた武士道』から見えるもの
1月15日(火) アメリカ独立宣言と遠友魂
当塾手伝いの大沼芳徳さんからは
:北海道版「100才人生:ジェロントロジー宣言」31章と寺島実郎塾長の20年前の朝日新聞インタビュー記事コピーのセット資料の説明
参加者の小嶋英生さんからは
:NPO活動の「雪氷環境プロジェクト」による「コーヒー豆」製造販売、高齢者向けの諸活動の紹介
参加者の安川誠二さんからは
:日本農業新聞の記者であることと、「北海道たねの会」の活動紹介
司会役の神内秀之介さんが、ちょうど17時半になったところでこの日の「塾」の終了を告げて会は終了。
その後、参加者それぞれの方々が、名刺交換や今回の塾運営全般、さらに受付業務を果たしてくれた磯真査彦さんの所で寺島さんのサイン入り新書を購入されていました。
18時になるところでこの日の塾活動は、終了しました。
最後に
……人間にとって「食と農」の不安定さは、大きなストレスになることからも、北海道は一次産業に近いというメリットは、理解されやすい。……
と言う寺島塾長の一言を記載し、11月4日の簡単報告と致します。 <文責:namedango>
◆当日配布資料 『寺島実郎の時代認識』・資料集:2018年秋号
(2018年9月3日刊/寺島実郎事務所発行) ④